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最高裁判所第三小法廷 平成2年(行ツ)149号 判決

上告人

大阪府水道企業管理者

豊島良三

右訴訟代理人弁護士

宇佐美明夫

宇佐美貴史

森戸一男

被上告人

植田肇

右訴訟代理人弁護士

辻公雄

井関和雄

大西裕子

松尾直嗣

森谷昌久

井上善雄

桂充弘

阪口徳雄

吉川実

秋田仁志

岩城裕

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宇佐美明夫、同宇佐美貴史、同森戸一男の上告理由について

一原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  被上告人は、昭和六〇年二月一五日、大阪府公文書公開等条例(昭和五九年大阪府条例第二号。以下「本件条例」という。)七条一項に基づき、本件条例の実施機関である上告人に対し、昭和五九年一二月に支出した大阪府水道部の会議接待費及び懇談会費についての公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求した。

ところで、本件条例八条には、同条各号所定の情報が記録されている公文書は公開しないことができる旨が規定され、右情報として、法人等に関する情報や事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(一号)、府の機関等が行う企画、調整等に関する情報であって、公にすることにより、当該又は同種の事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(四号)、府の機関等が行う交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(五号)が、それぞれ規定されている。

そして、上告人は、昭和六〇年三月一日、右請求に対応する公文書としては、支出伝票及びこれに添付された債権者請求書と経費支出伺(以下これらを「本件文書」という。)がこれに当たるとした上、そこに記録されている情報が右八条一号、四号及び五号に該当するとして、これを公開しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。

2  本件文書は、昭和五九年一二月中に府水道部が事務ないし事業の遂行のため外部の飲食店を利用して行った会議、懇談会(以下「懇談会等」という。)についての債権者請求書と経費支出伺とが添付された支出伝票であるが、これらから知ることのできる懇談会等の内容としては、開催日、会合の概括的な開催目的、その出席者数及び府側と相手方との人数内訳、懇談会等が行われた飲食店の名称等、飲食費用の金額及びその明細並びに右費用の請求及び支払の年月日であり、ときには右開催目的の欄に出席者の氏名が記録される場合があるものの、一般的には、懇談会等の出席者の住所、氏名は記録されず、また、懇談会等における具体的な会談の内容等は本件文書に記録されていない。

二そこで、まず、本件文書に記録されている情報が本件条例八条一号に該当するか否かを検討すると、原審は、前記の事実関係の下において、本件文書には飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件文書の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないとしてこれを否定しており、この原審の判断は、正当として是認することができる。

三次に、本件文書に記録されている情報が本件条例八条四号、五号に該当するか否かを検討する。

1  同条四号の趣旨は、府作成の「大阪府公文書公開等条例の解釈運用基準」等によれば、府の機関が意思形成過程において行う企画、調整等の事務(以下「企画調整等事務」という。)に関する情報には、内部で十分な検討、協議がされていないものや、精度の点検がされていないものが含まれている場合があり、これが公開されることにより、府民に誤解や混乱を与えたり、行政機関内部の自由率直な意見交換が妨げられたりするおそれがあるので、公開することにより当該又は同種の事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるものは公開しないことができるとしたものと解される。

同条五号の趣旨は、右解釈運用基準等によれば、府の機関が関係者との間で行う交渉、渉外、争訟等の事務(以下「交渉等事務」という。)に関する情報には、合意の成立や紛争の解決に向けて事前折衝等をする過程で出された提案や、行政機関内部で対応策を検討する過程で出された種々の意見等が含まれている場合があり、これが公開されることにより、今後、自由な発言、意見交換等が妨げられ、ひいては最終的な合意の成立あるいは紛争の解決が困難になるおそれがあるので、公開することにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものは公開しないことができるとしたものと解される。

2  ところで、本件文書に記録されている情報は、府水道部の懇談会等に関するものであるが、このような懇談会等の形式による事務は、前記のとおり、単なる儀礼的なものではなく、すべて府水道部の事務ないし事業の遂行のためにされたものであって、その内容いかんにより、四号の企画調整等事務ないし五号の交渉等事務に該当する可能性があることは十分考えられる。しかし、右情報は、前記のとおり、懇談会等の開催場所、開催日、人数等のいわば外形的事実に関するものであり、しかも、そこには懇談の相手方の氏名は含まれていないのがほとんどである。このような会合の外形的事実に関する情報からは、通常、当該懇談会等の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等の内容が明らかになるものではなく、この情報が公開されることにより、直ちに、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは断じ難い。

3  もっとも、本件文書において、このように懇談会等に関する外形的事実しか記録されていなくても、一般人が通常入手し得る新聞等からの他の関連情報と照合することにより、懇談の相手方や懇談の具体的な目的、内容が分かる場合もあると考えられ、また、前記のとおり、本件文書の開催目的欄等に懇談会等の相手方が記録されているものも含まれている。そして、このような懇談会等の中には、(1) 事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたもの(例えば、水道事業のための買収予定地の個々の地権者等に対する事前の意向打診、個別折衝等を目的とする会合)と、(2) それ以外の事務を目的として行われたもの(例えば、府水道部内部や国等の関係行政庁との単純な事務打合せのための会合)とがあり得るであろう。

そのように分けて考えた場合、(1)の懇談会等に関する本件文書を公開し、その記録内容等から懇談会等の相手方等が明らかになると、相手方において、不快、不信の念を抱き、また、会合の内容等につき様々な憶測等がされることを危惧することも考えられ、その結果、以後会合への参加を拒否したり、率直な意見表明を控えたりすることも予想される。そうであれば、このような文書を公開することにより当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることは否定できない。

しかし、(2)の懇談会等に関する本件文書については、これを公開しても、右のような不都合な事態が生ずることは考え難い。したがって、このような文書を公開することにより当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるということはできない。

4 そうすると、本件文書を公開することにより右のようなおそれがあるというためには、上告人の側で、当該懇談会等が企画調整等事務又は交渉等事務に当たり、しかも、それが事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書に記録された情報について、その記録内容自体から、あるいは他の関連情報と照合することにより、懇談会等の相手方等が了知される可能性があることを主張、立証する必要があるのであって、上告人において、右に示した各点についての判断を可能とする程度に具体的な事実を主張、立証しない限り、本件文書の公開による前記のようなおそれがあると断ずることはできない筋合いである。

ところが、本件において、上告人は、右の各点について具体的に主張するところがない。

5 そうであるとすれば、本件文書のすべてについて四号、五号該当性を否定した原審の認定判断は、結論において正当であるというべきである。

四以上によれば、本件処分を違法として取り消した原審の認定判断は、結局、結論において是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨はいずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男)

上告代理人宇佐美明夫、同宇佐美貴史、同森戸一男の上告理由

上告人(被告、控訴人―以下上告人という。尚、以下において略称はすべて上告人の第一審並びに原審にこれまでに提出の各準備書面記載のものをそのまま援用する)は、原判決は以下第一乃至第六に述べるとおり、数多くの本条例明文の定める内容を誤解し、法規を具体的事実に適用する仕方を誤り、又法規を事実にあてはめる際に具体的事実の法律的性質決定を誤る等の解釈、並びにその適用について誤り、又、経験則、採証法則等の違反があり、これらが積重なり、競合して本件公文書に記録されている情報が、本条例八条一号、四号、五号により非公開とできる情報に該当するに拘らず、右各条項の非公開とできる情報に該当しないから、本件決定は違法であるとして、被上告人(原告、被控訴人―以下被上告人という)の本件決定の取消請求を認容したものであるから、上記本条例の解釈の誤りが判決に影響を及ぼしたこと明らかであり、破棄を免れないというものである。

第一 原判決には本条例八条の解釈について、独自の見解に立ち、何ら明文の根拠なしに一般的解釈基準として「厳格な解釈」という如き解釈基準を新たに設定し、法令の定めをこえて法令を適用した違法が存する。

一 原判決は、その理由二、1(二一丁3行―二二丁10行)において「公開制度の運用の在り方を把握するうえで、原審(第一審)が説示する理念、沿革、さらには陥ち入り易い恣意的な傾向ないし趨勢への抑制等は、欠かすことのできない視点というべきである。

ただ、現実に府民が取得する情報公開請求権は、憲法によって直接付与されるものではなく、制度の理念の具現を指向する府が、個人のプライバシー等の保護を図りつつ、その属する行政事務の公正かつ効率的な執行との調和を考慮しながら、自ら立法政策として本件条例を制定したことにより、初めてその実体法上の根拠が与えられたものである。したがって、具体的な情報公開請求権の有無を判断するにあたっては、この観点を中心に据えながら、原審(第一審)が説示する右各視点を加え、本件条例制定の趣旨を把握して判断するのでなければ、正鵠を期しえないというべきである。……(中略)……

もっとも、このように考察するにしても、本件条例において、情報の非公開ということが、例外として位置付けられるべきものであることは動かし難いところである。したがって、公開除外理由を定める本件条例八、九条における該当性の有無の判断に当たっては、なるほど控訴人の主張するとおり、その条項に忠実に、かつ、対象文書の表面上に有形的に表出されたもののみならず、場合によってはこれに附随して存在する無形的、潜在的な情報も参酌すべきであろうが(もっとも、この参酌が恣意的に流れることのないような客観性のある運用がなされるよう特に留意されなければならない。)、それ以前に厳格な解釈が求められることはいうまでもないところである。」

と述べて、

本条例の趣旨、目的、理念に照らせば、右非公開事由に該当するか否かの判断は、条文の趣旨に即し「厳格に解釈」されなければならず、本条例八、九条における該当性の有無の判断にあたって、対象文書に無形的、潜在的な情報を参酌するにしても恣意的に流れることのないように、それ以前に「厳格な解釈」が求められることを言明すると共に、本条例において情報の非公開は例外として位置付けられることは動かし難いところと断じている。

二 しかしながら、一般的に行政情報一般の開示請求権を認める法律が制定されていない我国法制の下では、憲法二一条に関して知る権利の解釈と関連して、行政情報一般の開示請求権については抽象的権利にとどまると解され、情報公開請求権は本条例の制定によって実体法上の根拠が与えられたものであるから、本条例に上位する法令の存在による権利一般の制約は存しないところ、本条例第八条、第九条は、いずれもその条文の明文の規定上からは「次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開を」「……しないことができる(第八条)」「……してはならない(第九条)」、と定めるのみであり、その文言上「厳格な解釈」をすべきことを表示するものが存しないこと明らかである。

三 而して、法令の解釈にあたっては、先ず具体的法令の条文の文言を素直にみて、その文言の表示するところにしたがって文理解釈をして、その構成要件要素を具体的に正確に把握して確定することが先決であり、立法目的、趣旨、理念等は、上記の文理解釈によって確定され、把握された構成要件要素について、解釈を如何にすべきかを決定するについて考慮すべき基準になり得ても、それ以前に一般的基準を設定する根拠となるものではないから、かかる文理解釈の以前にその立法目的、趣旨、理念等を考慮して前文、目的規定をもって先ず一般的解釈基準として「厳格な解釈」というが如き基準を設定して、本条例の非公開事由を定めた直接規定である八条、九条の解釈をする場合に、それを一般的に制約する如き解釈をすることは、我国一般の法解釈の方法として誤りであること明らかであるのみならず、当該法令に定めなく根拠のない解釈基準を新たに設定することに外ならないから、法令の定めを越えて法令の定めのない法令を適用する違法を犯すものである。この限りで原判決には本条例第八条の解釈を誤り、本条例に定めのない「厳格な解釈」をすべきとする一般基準をもうけて本条例を解釈し適用した違法が存すること明白である。

尚、原判決は、「厳格な解釈」をすべき理由として「本件条例において情報の非公開ということが例外として位置づけられるべきであることは動かし難い」ことをあげているが、その根拠は何か。「情報公開請求権は……本件条例を制定したことにより、初めてその実体法上の根拠が与えられたもの」といいながら、非公開条項を例外と解釈すべきということがどこからでてくるのか明らかでない。

およそ八条、九条の非公開条項は、立法上の理念に基づく例外規定ではなく、立法技術上、例外的に規定されたにすぎないものであるから、そのことが本条例の解釈指針となるものではなく、直接、規定文言の解釈に影響を与えるものではない。したがって、原判決のいう「厳格な解釈」は、その前提からしても条例の解釈を誤った違法なものである。

四 この点に関して、原判決は、その引用する一審判決の理由説示において(一審判決の理由三、2本件条例の趣旨、目的等(一)、同判決二六丁10行〜二七丁3行参照)、本条例の前文の文言並びに本条例第一条の目的の記載から「基本的に憲法二一条等に基づく「知る権利」の尊重と同法第一五条の参政権の実質的確保の理念に則り、それを政府において具現するために制定されたものと認められる」というところ及び原判決の理由一、5(一七丁17行から一八丁13行目まで)において引用する情報公開準備研究班報告書の記載文言をもってその理由とする如くであるが、本条例第八条、第九条、その他本条例明文上にはそのことについて、これを一般的に定めた明文は存しないから、その理由のないことも同様明らかである。

五 しかも、本条例上、八条、九条の非公開事由に該当するか否かの判断にあたって、何故に「厳格な解釈」が求められることが第一義的に認められるのか、先ず「厳格な解釈」がとられなければならないと断ずる具体的法条の根拠は何か、又、判旨のいう「厳格に解釈」とは、何を対象とし、何と比較してどのようにすることか、誰が何時、何処でどのように行うものか、その基準が明らかでない。

この限りで、原判決は理由不備の違法ありと解される。

六 更に、原判決は、上記一、で引用した部分では、(具体的)情報公開請求権について、「憲法によって直接付与されたものでなく」と述べながら、上記四、で引用した部分の理由づけ及び上記のとおり一般的に「厳格な解釈」の制約を認めるところからみれば、本条例の具体的情報公開請求権について憲法二一条によって保障され認められた権利と解しているのではないかと疑われ(憲法上保障された権利と解するならば一般的厳格解釈も首肯し得るので)るものである。

七 而して、原判決において、知る権利との関連性において、具体的情報公開請求権をもって憲法上保障された権利と解している場合においては、我国の現行憲法の定めの上で、公開の基準、要件、手続等について具体的な定めが存しないところ、抽象的な請求権にとどまると解される憲法二一条の解釈を誤った違法が存することになるものである。尚、原判決が行政情報について具体的公開請求権が憲法上保障された権利と解しているとするならば、上記一、において摘示した判示においてこれと反する判示を明記しているのであるから、理由に齟齬のあるものとして違法たるを免れないものである。

而して、上記の如き原判決の違法が、次の第二乃至第六のところと合して原判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第二 原判決には、本条例の定め全部にわたり解釈を誤り、本条例の定める公文書公開の仕組、情報と公文書の公開手続における関連(情報の公開の方法としての公文書の公開制度であること)情報の特質等について誤認し、それが公開除外事由を定めた本条例八条、九条の定めについての立法目的、趣旨、根拠を誤認し、又、次の一、(1)乃至(10)において詳細述べる本条例の仕組と情報の本質、特性、「記録情報」と「掲記情報」(これらの略称については後記一の(1)乃至(3)、(5)参照)の検討の仕方、その関係等について誤解し、右八条、九条の解釈を誤った違法並びに経験則違反の違法が存する。

即ち、

一 本条例の定めを総合して大阪府における公文書の公開についての仕組をみれば

(1) 本条例は、公開請求人(本条例第七条)が公開請求書に公開を請求する情報の内容を記載して実施機関(本条例第二条四項)に請求することを受けて、実施機関はその請求にかかる情報の内容を確認した上で、実施機関において本条例第二条一項に掲げる公文書の内から上記のとおり実施機関の確認した請求人の請求のあった情報(以下「請求情報」という)の記録された公文書を探し出した上、その内で適切な公文書を特定する(本条例第十一条、十二条)。

(2) そして、特定された公文書(以下「対象公文書」という)によって情報の公開を行うものと定め、「請求情報」を記録した公文書が存在しないときはその「請求情報」の公開は行われない。

(3) 次に、かかる特定された「対象公文書」をすべてそのまま公開すべきものとはせず、本条例上において公文書公開の適用除外事由を定め、その第八条はその一号から六号に各その該当する情報を具体的に明示し、「対象公文書」に記録されている情報(以下「記録情報」という)が右各号に掲載された情報に該当する場合には当該公文書を公開しないことができるとなし、又、その第九条はその一号から三号に各その該当する情報を具体的に明示して、「記録情報」が右各号に掲記された情報に該当する場合には、当該公文書を公開してはならない(義務的に)と定め、実施機関は、「対象公文書」について「記録情報」が本条例第九条各号掲記の情報に該当する場合には、当該「対象公文書」について公開をしてはならない義務を負い、又はその第八条各号掲記の情報に該当する場合には、公開するかしないかを任意裁量によって決定する処分機能を与えている。而して、この裁量権を制限する明文規定は存在しない。

(4) かように、公開除外事由を定めたのは、「情報の公開」という事柄の性質、内容上からプライバシーの保護、公共の福祉の観点から、地方公共団体の行う行政事務、その他の事務事業の公正適切な遂行をなすに当たり、その保有する情報をすべて明らかにすることがかえって公正適切な事務の遂行を妨げ、又は困難にする場合、若しくは住民全体の利益が損われる場合が存するので、これらを考慮して左記のとおり保護法益、保護対象を区分特定して、定めている。

八条一号―人の生命等の保護に係る情報を除き、公開することにより法人等及び事業を営む個人の正当な利益を害することを防止する観点から定めたもの

二号―情報提供者との信頼関係、協力関係確保の観点から定めたもの

三号―府と国等との信頼関係、協力関係確保の観点から定めたもの

四号―行政における計画、施策等の立案、決定、実施に際しての調査研究、企画、調整等の公正且つ適切な執行を確保する観点から定めたもの

五号―行政の行う事務事業の目的達成又は公正かつ適切な執行の確保の観点から定めたもの

六号―個人の生命等の保護、犯罪の防止等、その他の公共の安全と秩序の維持の観点から定めたもの

九条一号―個人のプライバシー保護の観点から定めたもの

二号―法令又は条例の規定に基づく非公開情報と本条例との関係について定めたもの

三号―機関委任事務に係る通達等と本条例との関係について定めたもの

(5) そして、上記の如く、「対象公文書」(本件では本件公文書)の「記録情報」が第八条又は第九条各号掲記のいずれかに該当する情報(以下「掲記情報」という)を含むものである場合には公開を除外し、除外できるとする論理的必然の結果として、次には先ず「記録情報」のすべてを把握することが求められる。即ち、「対象公文書」には、如何なる情報が如何程、如何様に記録されて存在しているか、当該文書に記録された情報の質、量、内容をひろい上げ、とりまとめ、その一切をくまなく細大もらさず把握(以下これを「記録情報把握」という)することが求められる。蓋し、これなしには「掲記情報」が含まれるか否かの判断は行い得ないこと理の当然であるからである。

ところで、「記録情報把握」をなすのは、本条例に定めるしくみにより公文書の公開を目的とし「該当性検討」(略称は後記参照)のため行うものであり、公正、適切な行政執行として上記(4)の保護法益、保護利益を充分に保護しつつ公文書の公開を行うこととされていることの実行の手段の第一段階として行うものであるから、きわめて専門的知識、経験をもって判断し、実行しなければならないものであることが明らかである。

(6) かように、「記録情報把握」を了したときは、次にこれが「掲記情報」に該当するか否かを検討(以下これを「該当性検討」という)することとなる。

ところで、「該当性検討」を行う場合に、八条四号、五号は、「調査研究……等に関する情報」「交渉、渉外等の事柄に関する情報」と「掲記情報」を規定していることが注意されなければならない。即ち、「……等に関する」といずれも定められているから、情報の内容において「調査研究等……」「交渉、渉外等……」に「直接、間接又は具体的、抽象的をとわず広くつながりのある場合を含めて「調査研究等」「交渉、渉外等」に関係のあるものすべて」の意味において「記録情報」をとらえ把握すると共に、「該当性検討」すべきことを定めているものと解されるのである。

蓋し、「関する」は「係る」と規定された場合と異なり、「つながりが間接的な場合や漠然とした場合等規定すべき内容を広くとらえる場合」に用いられる語であるところから、これが首肯されると解するのである。

而して、「該当性検討」を行うのも上記「記録情報把握」と同様に、本条例の定める仕組にしたがって文書の公開を目的として、公正、適切な行政執行として上記(4)記載の保護法益、保護対象を確保するため行うものであるから、これまたきわめて専門的、技術的知識、経験をもって判断し、実行しなければならない事柄であることが本条例八条、九条明文に定められた「掲記情報」の内容をみれば一見明白である。

それは、実施機関のもつ該当性検討時のすべての専門的知識、経験をもって行わなければならないものたること明らかである。しかも後記(8)記載のとおり情報の本質、特性、作用、機能の特性から、きわめて専門的、技術的な知識、経験なしに行うことは不可能に近いものというべきものであることが明らかであろう。殊に、条例八条四号、五号の「該当性検討」にあたっては、行政活動に及ぼす「著しい支障」について検討することとなるが、これは行政の実情を把握している実施機関が、専門的、技術的な独自の知識、経験に基づいて判断する他ないことは、経験則上、明白な事実というべきである(後記(9)、(10)と共に、後記第三、第四、及び第六、(4)の違法に関連するところである)。

(7) 「該当性検討」の結果、当該「対象公文書」の「記録情報」が「掲記情報」に該当した場合は、八条、九条の各区分によって非公開とでき、非公開とされる。

(8) ところで、右検討の対象たる「対象公文書」に記録された「情報」は、「情報」の本質的性格、作用の多面的多様性、複雑な機能等から、多様な態様において存在し、その求める時、処、位によって質、量、内容が変化するものであること常識である。文書上の文字、数字、図形等文書の内容から客観的に且つ明示的に表出、感得されるもののみが文書に存在する情報ではなく、文書の存在自体、所在場所、形状、形式、形象状態等有形的、顕在的に存在するもの又、文書の作成者、作成目的、作成時期、作成経過、作成根拠、文書の性質、記載された対象の性質、文書の相互の相関関係等無形的、潜在的にその文書に付随して存在するものも当該文書に内在し内包される情報であり、それらがその求める人、求め方、求める時によってその質、量を変化させるものである。この点、例えば戸籍簿、住民票について、これらの書面上に記載の文言のみから表出される情報が、右書面の内包し記録する情報のすべてではないことを考えれば明白である。

而して、「記録情報把握」「該当性検討」においてひろい上げ、とりまとめ、把握されなければならないのは、上記の如き当該文書に内在し内包される、その時のその求められ方における情報すべてであり、これらの質、量、内容を一括ひとまとめにし総合して当該文書に記録された「記録情報」を把握した上でこの把握した「記録情報」が「掲記情報」に該当するか否か「該当性検討」を要するものである。蓋し、「情報」はその本質上、非公開により保護すべき利益、目的がある場合において、一度公開されると、その保護利益、目的の喪失を回復することが不可能なものであるところ、「掲記情報」は上記(4)記載のとおり非公開として保護すべきものを定めたものであるからである。

而して、単に文書に記載された文字、図形、形式等文書上有形的に表示記載されたもののみから得られる「情報」のみをもって「記録情報」と解して「該当性検討」を行うことは、「情報」のもつ本質的性格、作用の多面的多様性、複雑な機能等を無視し、少くとも過少評価し、誤解したものとして不当なもののみならず、それが「記録情報把握」「該当性検討」を不充分なものとすることから、本条例に定められたこれら事務の担当者たる実施機関の義務違反に結びついて違法なものとなる(守秘義務を定める地方公務員法の定めとの関連、公開してはならない義務を負う本条例第九条各号該当のものを見逃した場合を考えれば明白。尚、「記録情報把握」「該当性検討」を制限し、軽減する規定は存しないことに留意することが必要である)。

又、このことは、本条例明文の定めにおいて「各号のいずれかに該当する」「情報が記録されている公文書」と規定されていることからも明白である。蓋し、「記録する」という意味は、記載するというよりは広く記載されたものを含み、これを超えて他動的に付加されたもの、又無形的に潜在的に記録するものを含むことが意味的に明らかであるから、上記の如き無形的、潜在的にその文書に付加され、又付随する情報も「記録情報」に含まれたものとして把握することを要することが明らかである。

そして、これらのことは、又、上告人の原審準備書面(平成二年二月一五日付)五の③、⑤掲記の判例も肯定するところである。

しかるところ、原判決は、その理由中の判断において左記のⅠ乃至Ⅲに摘示する如き表現をしているところからみれば、上記情報の特質の理解不足から、情報の把握について本件公文書に明示的に記載された文言のみをとらえて本件公文書に記録された情報の質、量、内容たるものと誤認し、これをもって「記録情報」と解し、右誤認した情報を基礎としてこれが「掲記情報」に該当するか否か本条例を適用して判断している如くみられるものであるから、情報の把握について経験則違背の違法があり、又、右八条の解釈の誤りと経験則違反の違法が競合した違法あること明らかである。

Ⅰ 原判決理由の内、三、1、(二)本件文書の成立経緯、内容の内、(4)の「本件文書の記載から知ることのできる懇談会等の内容としては……一般的には、懇談会の出席者の住所・氏名は特定されず、また、いずれにせよ、懇談会等で話し合われた具体的内容等は、本件文書の記載からは全く不明である」の判示、

Ⅱ 別紙判示事項一、(一)、(2)の判示

Ⅲ 別紙判示事項二、(一)、(2)の判示

(9) しかるところ、上記請求情報の確認、請求情報の記録された公文書の探し出、対象公文書の特定、対象公文書について「記録情報把握」「該当性検討」という一連の作業(以下これを検討等作業という)は実施機関が行うものとされる。これは実施機関が請求情報を保有し、その情報の性質、内容、量等の一切を熟知するものとして最も適切、充分に「情報」を把握し検討し判断できるからであると共に、右(4)記載のとおりの保護法益、保護対象を有するところ、右(8)記載のとおりの情報の特性からして、公開による保護利益、目的の喪失は回復することが不可能なものであり、且つ「該当性検討」はその作業の目的、対象、内容等からきわめて専門的、技術的知識、経験を要すること上記(5)、(6)記載のとおりであり、且つ上記(4)記載の保護法益、保護対象からみて、又、これを正確に把握し、区分して作業をおこなう必要があるから、専門的、技術的知識、経験を有するもののみが可能であり、これを有するものは実施機関をおいて他に存し得ないからである。

(10) かように、実施機関が「検討等作業」を行うことから、この作業の実施、検討に当たっては、当然にその時点において実施機関として通常一般的に求められる注意義務をつくして「検討等作業」を行うことが求められる。蓋し、上記仕組(特に右(3)乃至(6)、(9)記載のところ)、情報の本質から、通常一般人の注意義務で足るとは解されないし、明文上、これを軽減、変更する規定は存しないからである。

そして、実施機関は、職分をつくし、その負担する注意義務を忠実にはたし、検討等作業を行うことが定められているのであって、これに恣意的裁量をなす余地は存しないのである。この点、上記第一、一、に摘示の原判決の判示をみれば、本条例上定められた上記実施機関の義務についての理解不足からくる本条例の解釈の誤りがあり、これが違法が存する。

二 而して、原判決は上記第一、一、に摘示した判示において「本件条例において情報の非公開ということが例外として位置づけられるものであることは動かし難いところである」、又「公開除外理由を定める本件条例八、九条における該当性の有無の判断に当たっては、なるほど控訴人の主張するとおり、その条項に忠実に、かつ、対象文書の表面上に有形的に表出されたもののみならず、場合によってはこれに附随して存在する無形的、潜在的な情報も参酌すべきであろうが(もっとも、この参酌が恣意的に流れることのないような客観性のある運用が特に留意されなければならない)」と判示するところから、又、後記の第三の三並びに別紙判示事項一、二記載の如く判示しているところをみれば、上記一、(1)乃至(10)に詳細述べた本条例の定める公文書公開制度全体の構成、仕組、内容(特に上記一、(3)乃至(10)記載のところ)についての解釈を誤った違法が存すること明らかである。

蓋し、右判示の如く解すれば「記録情報把握」「該当性検討」において無形的、潜在的情報を限定し、制限することになろうが、それが実施機関の注意義務違反を生ずることにつながるのであり、又、上記一、(8)記載の情報の特性についての誤解に立脚したものといわざるを得ないからである。

更に、原判決は、その理由二、1の末尾に「……公金の使途に関するものであり(地方自治法二四三条の三参照……)しかも、その支出に係わる者が、厳格な服務規律に基づいて職務を執行すべき立場にあること、したがってその職務権限を行使するに当たっても、その裁量の範囲に自ずと限度があってしかるべき一般職の公務員である場合においては、尚更というべきである」と判示しているところは、本条例の全体の仕組の解釈、特に上記一、(3)乃至(7)の本条例の仕組、内容の誤解、誤認を明確に表するものと解されるところである。

蓋し、本条例八条、九条の解釈として「記録情報」に「掲記情報」が含まれているときは、本条例は公開してはならない(九条)し、公開しないことができる(八条)のであり、それが公金の使途に関するものであるか否かを問わないこと明文上明白であるからである。尚、地方自治法二四三条の三の関係で公開が定められているもの(条例で)は、別の法令の定めによる開示であり、本条例による公開ではない。しかも、この解釈によれば、情報公開条例のない自治体ですら「公金の使途に関するもの」は、公開すべしということになり、情報公開請求権について憲法二一条によって保障され認められたものと解しているのではないかと疑われるが、その違法であることは、第一、七において述べた如くである。

そして、公開除外事由を定めた八条、九条の上記の如き立法形式、文言並びに上記一、(4)記載の如きその立法趣旨、目的、立法理由、根拠を正確に把握すれば、物事の表裏の表現であるが、これらは非公開とすべき(九条)、又、非公開とできる(八条)公文書の範囲を定めた一般的、原則規定と位置づけるを正当とするものである。蓋し、各条号は格別の独立した保護法益、保護対象をもって規定せられているものであるからである。

これらの点において、原判決には本条例八条、九条の立法目的、趣旨、根拠を誤認した違法が存すると共に、「記録情報把握」「該当性検討」を実施機関としての注意義務をつくして行うことを定めている本条例八条、九条の解釈を誤った違法が存するのであり(尚、これを軽減、免除する規定はなく、地方公務員法の守秘義務との関連が考慮されるべきであるに拘らず、原判決は判示の構成全体からみて、これを本条例の立法趣旨、目的、理念(本条例前文、第一条参照)から制約を加えることを前提とした基準をもうけて判断している如くであり、その表れが上記第一、において摘示した「厳格な解釈」という一般的解釈基準の設定につながるもの、又、原判決の引用する一審判決の理由の構成が「本件条例の趣旨、目的」を前提にして八条一号、四号、五号該当性を判断することとなっているものとみられ、これらが違法なること上記のとおり)、又、我国の現行法制上、具体的情報公開請求権についての条例制定は立法者の意図によって異った立法が可能であり、立法政策によって立法者の裁量によってその範囲が定められることを誤認、誤解した違法が付加されているのではないかと解される。蓋し、上記第一、一摘示の判示において、「…具体的な情報公開請求権の有無を判断するに当たっては、この観点を中心に据えながら、原審(一審)が説示する右各視点を加え、本件条例制定の趣旨を把握して判断するのでなければ、正鵠を期しえないというべきである」と述べて、一審の説示する各視点、本件条例制定の趣旨を具体的情報公開請求権有無の判断に付加するからである。

而して、原判決の上記各誤認、誤解に基づく違法が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第三 原判決は、本条例において本件公文書を公開しないことができる旨を定めた本条例八条一号、四号、五号の解釈を誤り、明文において定める要件を離れて独自の基準をもって本件公文書が本条例の非公開事由に該当するか否かを判断し、右本条例各号の明文の定める要件に従って、本件公文書が本条例の非公開事由に該当するか否かを判断していない。いわば存在しない法令を適用して本件公文書が本条例第八条一号、四号、五号に該当しないと判断しているもの、換言すれば本条例第八条一号、四号、五号を適用すべきに拘らずこれを適用しなかった違法が存するのであって、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであり、破棄は免れない。

一 原判決は、その理由一、2乃至5(原判決一七丁5行〜一八丁13行)をみれば、一審判決理由三、1、「府水道部の事業内容と本件文書の成立経緯・内容」、(一)府水道部の事業(1)乃至(3)、(二)本件文書の成立経緯、内容の(1)乃至(4)を一部字句訂正をほどこすのみで、ほとんどそのまま引用しているところ、その(1)乃至(3)において本件文書の内容について認定した上でその(4)(一審判決二五丁20行より二六丁8行)において次の如く判示している。

「このように、本件文書は、経費支出伺、債権者請求書が添附された支出伝票であるが、本件文書の記載から知ることのできる懇談会等の内容としては、懇談会等の開催日、懇談会等の概括的、抽象的な開催目的、その出席者数と府側及び相手方との人数内訳、懇談会費用の支払先である接客業者の住所・氏名、その飲食費用の金額及び請求明細、右請求及び支払の年月日、その飲食費用の請求明細であり、ときには右開催目的の欄に出席者の名前が記載される場合もあるものの、一般的には、懇談会の出席者の住所・氏名は特定されず、また、いずれにせよ、懇談会等で話し合われた具体的内容等は、本件文書の記載からは全く不明である。」

二 そして、続けて、一審判決理由三、2、本件条例の趣旨、目的等の(一)をそのまま引用し、本件条例の趣旨、目的等として、本条例前文又は第一条の文言を援用し、原判決において情報公開準備研究班報告書の文言の援用を追加した上で、

三 原判決の理由一、6(一八丁14行〜一九丁5行)において、

「右の見地に立って本件条例につき考察すると、府が保有する情報は公開を原則としながらも、その八条一号ないし六号において、公開しないことができる公文書を列記し、またその九条一号ないし三号において、公開してはならない公文書を列記しているところ、それらの各非公開事由に該当するか否かの判断は、個人のプライバシー等の保護には最大限の努力を払いつつも、条文の趣旨に即し、厳格に解釈されなければならないことはいうまでもなく、殊に主として府の行政執行上の利益の保護を図って制定されたと考えられる八条四号、五号等の解釈に当たっては、そこで保護されるべき利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か、また、その利益侵害の程度が、単に行政機関の主観においてそのおそれがあると判断されるにすぎないのか、あるいはそのようなおそれが具体的に存在するといえるのかを、客観的に検討することが必要である。」という。

四 更に、原判決は、第一審判決を引用するところ、その理由三の3「本件文書の本件条例の非公開事由該当性について」、の(一)、八条一号該当性について、の(1)(2)において別紙判示事項一、記載のとおり(第一審判決二八丁21行〜三二丁10行)述べ、又、その(二)「八条四号、五号該当性について」の(1)乃至(7)において別紙判示事項二、記載の如く(第一審判決三三丁1行〜四二丁10行)述べている。

五 しかるところ、本条例第八条一号、四号、五号は次のとおり定めていること本条例明文上明白である。

第八条 実施機関は次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開をしないことができる。

(1) 法人(国及び地方公共団体その他公共団体(以下「国等」という)を除く)その他の団体(以下「法人等」という)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより当該法人又は当該個人の競争上の地位、その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の財産若しくは生活に対し重大な影響を及ぼす違法な著しく不当な事業活動に関する情報を除く)

(4) 府の機関又は国等の機関が行う調査研究、企画、調整等に関する情報であって、公にすることにより当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

(5) 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報であって、公にすることにより当該若しくは又は同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

六 而して、右明文の定めからは、本件公文書に記録された情報が

① 法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であり、

② 公にすることにより当該法人等又は当該個人の競争上の地位、その他正当な利益を害すると認められるものである。(但し、上記五(1)記載のとおり明文上(人の生命……に関する情報を除く)として除外されるものであるが、本件では関係のないこの部分を省略する)

という①、②の要件を充足するとき、右第八条一号に、

又、本件公文書に記録された情報が

③ 府の機関……が行う……調整等に関する情報であり、

④ 公にすることにより、当該又は同種の……調整等を、公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるものである。

という要件を充足するとき、右第八条四号に、

又、本件公文書に記録された情報が

⑤ 府の機関が行う……交渉、渉外等の事務に関する情報であり、

⑥ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものである。

との要件を充足するとき、第八条五号に

各該当するものとして実施機関は本件公文書を公開しないことができることを定めていることが明白である。

七 そして、本条例の明文上において本件公文書を公開しないことができる要件として、これ以上の又はこれ以外の要件を定めていないことが明らかであるから、実施機関が本件公文書を公開しないことができるものか否かは、本件公文書に記録された情報において上記六の①、②、又は③、④若しくは⑤、⑥の要件を充足するものであるか否かを検討し、吟味すれば足り、これ以上の又はこれ以外の要件を付加したり、考慮することは、本条例の明文の定めのないことを付加するものとして違法たるを免れないこと明らかである。

八 しかるところ、原判決は、上記一、乃至四、において摘示した如くその判文からみる限りにおいて、本件公文書に記録された情報について、上記六の①、③、⑤の各要件に各該当する情報であるか否か判断を示していない。更に又、当該情報が上記六の②、④、⑥の各要件である、それを「公にすることにより……当該法人等……の正当な利益を害すると認められるもの」或るいは「公にすることにより……著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」であるか否かについても全く判断を示さないのみか、独自の基準をもうけて判断しているのであって、その違法たること明らかである。

蓋し、原判決は上記三、において摘示する如く、「右の見地に立って本件条例につき考察すると、……それらの各非公開事由に該当するか否かの判断」は、と述べ、本条例の趣旨、目的、理念より「個人のプライバシー等の侵害については最大限の努力を払いつつも条文の趣旨に即し厳格に解釈」されなければならないとか、又、本条例第八条四号、五号の解釈に当たって、明文の根拠のない「主として府の行政執行上の利益の保護を図って制定された」とか、「そこで保護されるべき利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か」「利益侵害の程度が単に行政機関の主観においてそのおそれがあると判断されるにすぎないのか、あるいはそのようなおそれが具体的に存在するといえるのかを、客観的に検討すること」が必要というが如き基準要件を独自に加え、本件文書が本件条例の非公開事由に該当するか否か検討するというところから明らかであろう。

更に、原判決の引用する一審判決の判示をみれば

別紙判示事項二、(一)、②並びに③(ロ)及び(2)乃至(6)の判示において、明文の定めを離れて独自に定める原判決のいう「意思形成過程情報」「折衝過程意見等」「対応策」(以下これらを含めて判決対象情報という)に該当する情報のみを八条四号又は五号に該当する情報と解し、それを前提として判断していること判文上明らかである。

而して、この限りで原判決は本条例の定めのない法令を適用していること明白である。

尚、右の点に関して原判決は、上記三、に摘示の如く判示しながら、右のとおり原判決の引用する一審判決は別紙判示事項二の(一)、(6)において「文書を公開することによって生ずる右支障、弊害を検討するだけでなく、文書を非公開とすることによって生ずるおそれのある弊害や、また文書を公開することによって当該事務の公正かつ適切な執行に資する面がある場合には、そのような有用性、公益性をも総合考慮して決せられる」というが如き公開による有用性、公益性と非公開による支障、弊害を総合考慮すべきことを宣明するが、かかる明文のないこと明らかであり、この限りでも本条例の定めのない法令を適用している違法がある。しかも、右一審判決理由は、上記三、に摘示の判示以上の要件を付加するものであるところ、これを看過して、そのまま引用する原判決は理由不備の違法あること明白である。

しかも、右に関して実質的に保護に値する正当なものとは何か、誰が何をもって決めるのか、又は値しないと区分し、決定するのか、その基準、根拠が明らかでないから、この限りで理由不備の違法が存するし、上記のとおり六の③、④若しくは⑤、⑥の要件をそなえる情報であるときは非公開とできるものであるところ、判示の基準によれば判決対象情報に限定され、判決対象情報に含まれない六の③、④又は⑤、⑥の要件をそなえる情報を無視若しくは欠落して判断することになること明らかであろう。

又、右六の③、④又は⑤、⑥の要件からみれば別紙判示事項二の(一)、(2)にいう如く、懇談会等関係の外形的事実とその協議内容等の実質が分離できない合理的根拠はないというが如き、分離して考察する必要は本要件の判断に当たっては不要のことである。かかる分離することなく、本件公文書に記録された情報を把握して、それが上記六の①、②又は③、④若しくは⑤、⑥の要件に該当するか否かを検討すれば足りること、右要件の定めから明白なところである。

九 尚、上記六の①の要件において「……事業に関する情報」、又、六の③、⑤の要件において「……調整等に関する情報」「……渉外、交渉等の事務に関する情報」と規定し、いずれも「……に関する情報」であることが要件とされているところ、法文の明文の規定上「関する」とは「係る」に対比して明らかなとおり「……に」とある部分とのつながりが間接的な場合や漫然とした場合等、規定すべき内容を広くとらえられる場合に用いられる語であるから本件公文書の場合「事業に」「調整等に」「……渉外、交渉等の事務に」とのつながりが間接的な場合や漫然とした場合等広くとらえなければならないものとして規定されていることに注意するを要するものである。この点、原判決の判示からは上記の如く明示しないので判然としないが、その判文全体をみれば「係る」と規定された如く狭く解している如くみられるので、この点に本条例八条の解釈を誤った違法が存するものと解される。

しかして、原判決は、本条例第八条一項、四号、五号の解釈を誤り、明文の定める要件によらず、明文の定めのない独自の基準、構成要件をもうけて判断していること明らかなものとして違法たるを免れない。しかして、これが判決に影響を及ぼすこと法文の定めによらず判決しているのであるから、自明のところであり、これが破棄は免れないものというものである。

第四 原判決には本条例第八条四号、五号の明文の規定において、各「著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(情報)」と規定されているところ、「おそれ」についての解釈を誤った違法、又、誤った解釈をそのまま適用した違法が存するものである。即ち、

一 原判決は、上記第三、三、摘示のとおり、「そこで保護されるべき利益が実質的に保護に値する正当なものであるか否か、また、その利益侵害の程度が、単に行政機関の主観においてそのおそれがあると判断されるにすぎないのか、あるいはそのようなおそれが具体的に存在するといえるのかを、客観的に検討することが必要である」

といい、

別紙判示事項二、(一)、(4)において、「本件で、右のような懇談会等の開催の外形的事実を明らかにすることによって生ずる支障というのは、事柄の性質上、未だ抽象的かつ不確定な単なる憶測の域を出るものではない。それを超えて、「そのような危険性が存在することを一般的社会通念上何人にも納得、首肯せしめる程度にまで具体的に明らかにする」証拠は全く存在しないから、右にいう「著しい支障を及ぼすおそれ」があるということはできない」

となし、又、

別紙判示事項二、(一)、(6)において、「…文書を公開することによって生ずる右支障、弊害を検討するだけでなく、文書を非公開とすることによって生ずるおそれのある弊害や、また文書を公開することによって当該事務の公正かつ適切な執行に資する面がある場合には、そのような有用性、公益性をも総合考慮して決せられる」

というものであるから、明文規定の文言をはなれて「利益、侵害のおそれが具体的に存在するといえるか客観的に検討すること」という要件を付加し、又、本条例上何ら定めのないに拘らず、本条四号、五号が「主として府の行政執行上の利益の保護を図って制定された」と独断し、「保護されるべき利益が実質的保護に値する正当なものか否か」「文書を公開することによる支障、弊害を検討するだけでなく、……文書を公開する……その有用性、公益性をも総合考慮して決せられるべき」とか、又、「有用性、公益性があること」という明文の根拠のない区分基準を用いる違法の存すること上記第三、において詳論したところでもあり、明らかなところである。

二 しかるところ、上記明文上の定めはいずれも「著しい支障を及ぼすおそれのある」と規定しているところ、「及ぼすおそれ」という場合には「一般的に及ぶであろう可能性、危険性が抽象的に存する場合をすべて広く含む」ものと解されるのが通常の「おそれ」という文言の用法である。即ち、

法令用語としての「おそれ」の使用方法を調査してみると、

① 「望ましくない事実又は関係が生じる可能性があるときという意味」

(法令用語辞典 学陽書房)

② 「おそれがある」というのは、いうまでもなくそういう危険が発生する可能性があるということであって、……「必要があるとき」、あるいは「必要があると認めるとき」というにくらべれば一そう権限、権能の発動のわくがゆるめられているといえる」

(林修三著 法令用語の常識 日本評論社)

と解されているところからも明らかである。

そして、本要件の定めから「及ぼすおそれ」という将来の見込み、可能性の予測をその時点で行い、かかる予測において「著しい支障を及ぼす」と認められる危険性が認められる場合には本要件を充足するものであるから、「著しい支障が一般的に及ぶであろう可能性」、所謂抽象的危険が存すれば足りることを明文上定めているのである。而して、右明文上、「当該……調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」「当該……同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」と規定しているから、「おそれ」は右規定されているような「著しい支障を及ぼす」ものでなければならないが、上記第二、の一の(1)乃至(10)で述べた如き本条例の仕組(特に「記録情報把握」「該当性検討」の仕方、担当者が実施機関であること、「掲記情報」の保護法益、保護対象からみて)から「おそれ」は実施機関の知識、経験において危険性が認められる場合、即ち、実施機関において、著しい支障が一般的に及ぶであろう可能性があれば足りるのである。そして、右危険性は荒唐無稽なもの、杞憂の如き非常識なものは除かれることは常識上当然のところであるが、実施機関の専門的、技術的知識、経験において危険性ありと抽象的に認められるものはすべて「おそれ」に該当するものである。

かように、「おそれ」は上記の如く実施機関の知識、経験において危険性の認められるものであるが、「おそれ」の認められるか否かは、その判断時において将来を見通しての見込み、予測を行うものであり、その予測において抽象的危険の存否の判断をするのであり、その判断をするものは本条例上実施機関と定められているところ、右判断にあたっては実施機関は自ら上記第二、一、(9)、(10)記載の如き高度の注意義務をつくして可能性、危険性を探り、検討しなければならず、かかる作業において上記の如き「おそれ」が認められるときは、非公開にできる旨を本条項は認めているものである。

しかるところ、原判決は、上記の如く本条例明文上の「おそれ」の定めを誤解した違法があり、その誤解のままこれを適用した違法を重ねたものであって、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。

蓋し、本件の場合、杞憂の如きものでも荒唐無稽なものでもなく、実施機関の技術的、専門的知識、経験からは、ごく常識的なものとして、後記第六、(4)記載の如き「おそれ」があること(萎縮効果等)が認められること明らかであるから、本条例の定めにしたがって実施機関は本件文書を非公開としたものであって、何らの違法は存しない。

にも拘らず、これを否定した原判決には、上記「おそれ」についての誤解又は「おそれ」の解釈を誤った違法が存するものである。

第五 原判決には、本条例八条一号の解釈適用に関して、「接客業」の業務実態、実状並びに領収書の公開、集金、支払内容が本制度の下で接客業者の意思に基づかず公開されることについての影響について、経験則違反若しくは採証法則を無視して、唯一証拠を根拠なく排除した違法が存するというものである

即ち、

一 原判決は、接客業の業務実態、実状について、原裁判所の経験則を基礎として認定しているところ(その判示よりみて)、一般経験則上から、接客業においては、顧客に対する信頼関係、安心感、親切、真心が設備、料理、サービスと一体として提供されて対価を得て成立する業態であるから、顧客との信頼関係を基本として成立し、存続しうるものであり、各店舗における価額、単価、品目、品数、値引明細、集金方法、入金経過、入金内容等顧客との取引内容の具体的詳細は、接客業の営業方針、営業内容のノウハウに深くかかわるところであり、価額の設定は店の格式を決定し、その営業方針の基本となるものであって、価額とともに単価、品目、品数、値引明細等が判明するものがみだりに公開されることは、特定の取引内容であっても継続し、反復して、時、場所、人が区分され、取引品目、単価を含めて取引内容及び取引金額、集金、支払内容等が具体的個々に判明し、集積する場合には、営業の実態を白日のもとにさらされることになり、営業上のノウハウ、秘密を暴露されることにつながり、それが当該接客業者の営業上の秘密たる自己の営業実態を公表することになり、それが当該業者の正当な利益を害することが明らかに認められるに拘らず、原判決はこれを誤解した違法があること明らかである。蓋し、何時どこで、誰がどの様なものをいくらで誰に(少くとも水道部に)提供し、その支払は何時どの様にして行われたか、具体的に接続し、集積して明らかになるものであるから、これが接客業者の営業上のノウハウ、秘密につながる営業実態そのものの情報であること明らかであり、これの公表が接客業者の営業上の正当な利益を害すること明らかであるからである。

二 しかも、本件の場合、本制度の利用により継続し反復して明らかになるもので、利用者の意図とかかわりなく、また接客業者の意思にも関係なく公開されることに留意しなければならない。そして、結果的に所謂格式のある店等について当該業者の信用、社会的評価に重大な影響を及ぼすことが考えられることを軽視して誤認した経験則違反の違法が存する。

三 又、法人等において請求書、領収書等は当該個別の取引についてその個別取引の権利行使等のために個別に作成されるもので当該取引関係者以外に交付されることは通常あり得ず、当該取引関係者以外のものに広く公開されることを予定し作成されているものではないことが一般通念であると解されるところ、これに反する原審認定がかかる通念に反する違法なものであること明らかである(例えば値引の記載の如きをみれば明白)。

四 これらのことは、接客業についての一般常識であると解されるが、その業容、業種の多様なことから、その営業実態について通常の社会経験、一般常識では判断せず、専門的、技術的知識、経験をもって判断するを要するものと解するならば、これらの点について、専門家にして実状に精通する原審証人今和泉明の証言において証明され、これが実状は明確に立証されているところ、これを社会通念、経験則をもって排除した原判決には、経験則違反(一般的常識としての接客業の実態、実状に関する理解についての経験則、並びに専門家の知識、経験に基づく証明を特段の理由なく排斥していることに関する経験則)若しくは唯一の専門的、技術的経験、知識として具体的、正確、適切な内容をもつ今和泉証言を特段の理由なく反対証明証拠もなしに排斥した採証法則違反が存すること明らかである。

第六 而して、上告人が原審において提出した証拠を総合して本件公文書につき上記第二、一、の(1)乃至(10)の本条例の仕組にしたがって記録された情報を把握し、本条例八条一号、四号、五号に定める非公開事由該当性をその構成要件たる上記第三、六、の①乃至⑥の要件にしたがって素直に本件公文書に記録された情報を把握し、該当性検討すれば、左記のとおりその情報において本条例八条一号、四号、五号に該当する情報であることが明らかに認められるものであったから、実施機関においてこれを非公開と決定したのであって、かかる非公開とした原処分に何らの違法のないこと明らかである。

以上、要するに、原判決は、立法者がその裁量により、本条例による公文書公開制度が上記第二、一の(1)乃至(10)の仕組をもって定めた立法者の選択を無視して、独自の見解に立って大阪府の公文書公開制度を理解し判断したところに、根本的誤りが存するものである。

よって、原判決の法令違背は明らかであり、それが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、判決の破棄は免れず、本件請求は棄却さるべきものである。

(1) 本件公文書に記録された情報が接客業そのものに関する情報であること明らかであるから、上記第三、六の①の要件を充足すること明らかである。

(2) そして、第三、六の②の要件を充足することは、上記第五、一乃至四記載のところから明らかなところである。

(3) 而して、第三、六の③、⑤の要件を充足するかをみるに、本件公文書に記録された「記録情報」は、その記載文言、形式等文言の有形的情報に、作成者、作成目的、作成時期、経過、文書の性質、記載対象の性質等無形的、潜在的情報を総合するとき、水道部において第七次拡張事業又は新たな水源確保のための新規事業の検討等、事業活動として計画を策定し、実施するため多額の財源の確保と多数の関係者の理解と協力を得るための種々の関係者との渉外、交渉、調整、又府の行う施策の立案、推進、行財政運営上必要な調整、協議のために開催した会議、懇談会の開催に要した経費のうち昭和五九年一二月に支出した各件別の支出明細を記載した書類であるから、支払先等、開催目的等が記載され、会議の存在、時期、規模、場所等が明らかにされ、開催した会議に要した費用明細が具体的に明らかになるものとして開催された会議に関する情報を形成し、その会議は渉外、交渉、調整のためのものであり、又行財政運営上必要なる調整、協議のためのものであるから、かかる会議に関する情報としてそれ自体、渉外、交渉、調整に関する情報であること明白なものである。

よって、上記③、⑤の要件をいずれも具備すること明らかである。

(4) 而して、第三、六の⑥の要件を充足するかをみるに、懇談に関するものは事柄の性質上、関係者と接触し、その意向を打診し意見を調整するなど秘匿すべき行政事務を伴って行われることが多く、右懇談の相手方、その日時、支出金額についてもこれが明らかになると秘匿すべきものが明らかにされ、又他の情報と相俟って推測を生じ、その後相手方が懇談に応じなくなる(萎縮効果)又、他との比較にともなう混乱等著しい支障が一般的に及ぶであろう可能性あること等が明らかであり、本件の場合に本件公文書の公開が、水道部の行う第七次拡張事業に基づく事業の企画、調整、渉外、交渉を行うについて関係者との信頼関係を損い、関係者の理解と協力が得られなくなるなど、水道部の事務、事業の公正かつ適切な執行に著しい支障を生ずるおそれがあること、証人田中成忠の証言、及び上告人がこれまでに提出した乙各号証によって明らかであるから、これが要件を充足すること明らかである(この点は別紙判示事項二、(一)(5)においても認めるところと解される)。

尚、この点に関し、原判決が一審証人田中の証言を措信しがたいとする点、並びに本件について、大阪府公文書公開審査会の審査手続を経て本件決定が妥当である旨の答申(〈書証番号略〉)が存するに拘らず、これを措信しない点は、上記第二、(5)、(6)、(8)、(9)、(10)記載の本条例上きわめて専門的、技術的知識、経験をもって判断すべきことを要することについての唯一の証拠を、その様な知識、経験を有さない原裁判所が特段の事由もなく通常の一般常識、判断をもって排斥したものとして、経験則違反、又は唯一証拠排除の採証法則違反の違法があることになり、かかる違法が原判決に影響を及ぼすこと明らかである。

別紙判示事項一

(一) 八条一号該当性について、

(1) ……(前略)……本条号は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、社会通念に基づき判断すると、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報については、一定の場合を除き、公開しないことができるとしたものと解され、具体的には、生産技術等に関する情報(特許によるものを除く)、販売、営業等に関する情報、経理、労務管理等に関する情報、信用上不利益を与える情報等がこれに該当すると解される。

(2) そこで、本件文書が本条号に該当するか否かについて検討するに、前記1認定の事実によれば「本件文書に記載されるのは、懇談会等に使用された飲食店等の場所、名称とその飲食に係る料理等の売上単価及び合計金額のみ」であり、それ以上に当該飲食店を経営する接客業者の営業上の有形、無形の秘密、ノウハウ等、同業者との対抗関係上、特に秘匿を要するような情報が記載されているわけではないこと、また地方公共団体の一部門たる府水道部による利用の事実が公表されたからといって、特に当該接客業者が社会的評価の低下等の不利益を被るとは認めがたいこと等からすれば、本件文書に記載されている情報が、公開されたとしても、それによって、当該接客業者の競争上の地位その他正当な利益が害されるとは認めがたい。

(3) 「接客業の場合、その顧客先や利用内容等」が、営業実態の一部をなす情報であること及びそれらをみだりに公表しないことがその信用の重要な部分を占めることはたしかであるが、本件では、その顧客先や利用内容等のすべてを明らかにするわけではなく、数ある顧客の中の一顧客にすぎない府水道部の、それも特定の期間の利用状況を明らかにするだけであるから、それによって、その営業実態のすべてが明らかになり、取引上・経営上の秘密が侵されるとはいえない。また顧客先等の公表の点についても、接客業者の側から、その顧客先を公表する場合ではなく、その利用者の側から利用の事実を公表する場合であるから、右公表が当該接客業者の営業上の信用の失墜につながるものではないので、本件条例第八条一号に該当しない(二八丁21行〜三二丁9行)。

別紙判示事項二

(一) 八条四号・五号該当性について

(1) 八条四号・五号の趣旨

① 本件条例八条四号は、府機関等「が行う調査研究、企画、調整等に関する情報であって、公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのある」情報が記録された文書を公開しないことができる旨定めているところ、運用基準を参考としつつ、同条号の趣旨を審究すれば、同条号は、

② 行政機関における意思形成過程は、情報の収集、調査、企画、調整、内部的な打合わせ、関係機関との研究、検討、協議等を繰返しながら行われるものであり、その過程の情報の中には、公文書としての決裁、閲覧こそ終了しているが、それが意思形成過程の一場面に過ぎないため、行政機関内部で十分検討、協議がなされていない情報や、精度の点検がなされていない情報などが含まれている場合があり、これらの情報(以下「意思形成過程情報」という)が公開されることにより、府民に誤解、混乱を与えたり、行政内部の自由率直な意見交換が妨げられたりするおそれがあるので、これらを防止するとともに、当該調査研究、企画、調整等(調整等事務)が終了した後においても、公開すると同種の調整等事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるものは、これを公開しないことができるとするものとしたと解され、具体的には、行政機関内部の検討案等、調査研究におけるノウハウ、調査内容等、各種会議、意見交換の記録、資料等、行財政運営上の必要な調整、協議等に関する情報等がこれに該当すると考えられる。

③ 本件条例八条五号は、府機関等「が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのある」情報が記録された文書を公開しないことができる旨定めているところ、運用基準を一つの参考としつつ、同条号の趣旨を審究すれば、同条号が文書の非公開を定めている理由は、

(イ) 行政機関が行う事務・事業の中には、取締り・立入検査の要領や試験問題などのように事務・事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で、情報を公開することにより、当該事務・事業の実施の目的を失い、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては府民全体の利益を損うものがあること、また、

(ロ) 行政機関が行う交渉、渉外、争訟等の事務(交渉等事務)は、その性質上、一時に処理しうる事柄ではなく、最終的な合意の成立あるいは紛争の解決に向けて、関係者間で継続的な折衝と調整が必要とされる事務であるところ、右折衝、調整等の過程で出された種々の意見等(以下「折衝過程意見等」という。)を逐一明らかにすることとすると、自由な発言、意見交換等が妨げられ、ひいて、最終的な合意の成立あるいは紛争の解決も困難となること、また、これら対外的な交渉等事務を行うについては、行政機関内部で意思を統一し、それに対する計画、方針を立て、対応策を検討する必要があるが、それらの計画、方針、対応策(以下「対応策等」という。)が事前に明らかになっては、当該交渉等事務の適切、有効な処理に支障をきたすうえ、ある程度反復、継続して生ずる可能性のある交渉等事務の場合は、当該交渉等事務の終了した後も、その対応策等を公開しては同種事案の処理に支障をもたらす可能性のあること等にあると考えられ、右(イ)に関する具体例としては、取締り、監督、立入検査に関する情報、試験、入札に関する情報等がこれに該当し、右(ロ)に関する具体例としては、交渉、渉外に関する情報、争訟に関する情報等がこれに該当すると解される。

(2) そこで、本件文書が本件条例八条四号・五号に該当するか否かについて検討するに、本件文書に記載される情報が本件条例八条五号にいう「取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札等の事務に関する情報」に当たらないことは明らかであるし、右情報は、懇談会等の開催日時、場所、その概括的、抽象的な開催目的、その出席者数、飲食費用の金額等、いわば懇談会等開催の外形的事実のみであり、それ以上に、当該懇談会等の個別的、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等、その実体的内容を明らかにするものではないこと、なお、本件文書の懇談会等の開催目的にその出席者の氏名が記載されたり、あるいはその開催目的がある程度具体的に記載された場合などは、それらの記載から、当該懇談会の内容がある程度推測される場合もあると思われるものの、それによって、推知できる内容は、懇談会等の開催目的や、協議のテーマ等から推測される範囲の、限定的かつ抽象的な事項にとどまると考えられるのであるから、右のような種類の情報が本件条例八条四号で非公開の対象としている「意思形成過程情報」に当たるとは考えられないし、また、本件条例八条五号で非公開の対象としている「折衝過程意見等」あるいは「対応策等」に当たるとも考えられない。なお、被告は、本件文書に記録されているような懇談会等の経費支出明細等を記載した書面は、事柄の性質上会議の内容である情報と密接不可分であるから、本件条例八条四号の調整等事務及び同上五号の交渉等事務に関する情報に当たるとするところ、たしかにその両者はある程度関連性を有することは否定できないにしても、なにゆえにその両者が不可分であるのかについての具体的論証は何らなされていないし、本件文書の記載内容等に照らし考えても、右のような懇談会等開催の外形的事実と、その協議内容等の実質が分離できないとする合理的根拠はないと考えられるから、右主張は理由がない。

(3) 府水道部の行う事業は、その性質上、極めて多岐にわたるものがその中に含まれ、事前の折衝、調整、協議等を重ねる必要があるため開催される懇談会や、対外的な交渉等の事務を行うについて、最終的な合意の成立に向け、また、継続的な折衝、調査等を行うための懇談会等、また、それに向けて行政機関内部で意思を統一し、それに対する計画、方針等を立てるための懇談会等もあると思われ、それらについては、一定の段階に達するまでは、特定の範囲の関係者と懇談会等を開催すること自体、あるいは懇談会等の名称、目的自体を秘匿して計画を進める必要のある場合も全く考えられないではなく、このような種類の懇談会等については、懇談会等の開催目的や、そこから推知できる懇談会の出席者自体が、意思形成過程情報の一部あるいは折衝過程意見等ないしは対応策等の一部として、本件条例第八条四号・五号に該当するように思われないでもない。

(4) しかしながら、右のような、懇談会等の名称、目的、出席者等、懇談会等の実体的内容を成すものではない、いわば懇談会等開催の外形的事実までが、本件条例第八条四号・五号の本来的に予定する意思形成過程情報あるいは折衝過程意見等・対応策等の範囲に含まれると解しうるかは疑問であるし、仮に、それに含まれるとみる余地があるとしても、本件条例第八条四号・五号に基づき、右のような情報を非公開とできるためには、それら調整等事務及び交渉等事務に関する情報を公にすることにより、当該又は同種の調整等事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ(同条四号)、又は、当該若しくは同種の交渉等事務の目的が達成できなくなり又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ(同条五号)がある場合でなければならないところ、本件で、右のような懇談会等の開催の外形的事実を明らかにすることによって生ずる支障というのは、事柄の性質上、未だ抽象的かつ不確定な単なる憶測の域を出るものではない。それを超えて、「そのような危険性が存在することを一般的社会通念上何人にも納得、首肯せしめる程度にまで具体的に明らかにする」証拠は全く存しないから、右にいう「著しい支障を及ぼすおそれ」があるということはできない。

(5) もっとも、原審証人田中成忠の証言中には、本件文書が公開され、それによって府水道部との懇談会等に係る外形的事実の一部でも明らかになれば、その懇談会等の相手方は、懇談の内容等も明らかになるのではないかとの危惧を抱き、府水道部との信頼関係がなくなり、懇談会等での自由率直な意見交換が妨げられ、さらに、それらの者が、以後、府水道部の行う会議・懇談会等に応じなくなるなどの支障が生ずるとの供述部分がある。しかしながら、本件のような情報公開請求に伴って、懇談会等開催の外形的事実及びその金銭支出関係が明らかになったからといって、その出席者がただちに、その懇談会等の具体的内容までが明らかになるとの危惧感を抱くか否かは甚だ疑問であるが、それをさておいても前記2の(二)のとおり、本件条例第八条四号・五号で保護されるべき府の行政執行上の利益は実質的に保護に値する正当なものでなければならないところ、本件文書に記載されている懇談会等の事実は公的な事柄に関することであり、かつその費用も、本来府民にその使途を明確にすべき公金(……(略)……)から支出されているのであるから、府水道部において、情報公開請求による府民の求めに応じ、そのような懇談・飲食の外形的事実を明らかにし、それによって、その相手方との関係において、なんらかの行政施策遂行上の支障が出たとしても、それは、けだし事務・事業の公正な遂行上やむをえない事態であり、不可避な支障であるというべきであって、右支障を回避するため、右懇談・飲食の外形的事実自体を全く一般府民に秘匿することを保証し、それによって、当該相手方の府水道部に対する行政施策等についての協力関係を取り付けることまでが、右各条号で保護されるべき、府水道部の行政執行上の利益とは到底解しがたい。

(6) ……本件条例第八条四号・五号にいう、当該又は同種の調整等事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ(同条四号)、または、当該若しくは同種の交渉等事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ(同条五号)があるか否かの判断に当たっては、「文書を公開することによって生ずる右支障、弊害を検討するだけではなく、文書を非公開とすることによって生ずるおそれのある弊害や、また文書を公開することによって当該事務の公正かつ適切な執行に資する面がある場合には、そのような有用性、公益性をも総合考慮して決せられる」べきところ、仮に本件文書を公開することによって、ある相手方との懇談・飲食の事実が明らかになり、それに伴い一時的には当該相手方から行政施策上の協力を得られなくなるなどの支障、弊害が生ずるおそれがあるとしても、右のような支障、弊害をおそれる余りそれを非公開とするとすれば、右懇談に伴う飲食費の使途、明細が一般府民には全く明らかにされないままになり、それらが真に適切に用いられているか、不必要な使途がないか等を監視、検討する機会が奪われてしまうことになるという弊害が予測されること、逆に、本件文書を公開するとすれば、その使途、明細が、府民の自由な批判にさらされ、一時的には混乱や支障が生じたとしても長期的かつ将来的にみた場合、右懇談等の事務の適正化を期することができるという有用性、公益性があること、なお、これらの判断に際しては、公金による飲食を伴う懇談等が、とかく安易になされかつその範囲が拡大しがちな傾向を持つことを十分に考慮する必要があること等を総合考慮すれば、本件では、本件文書を、非公開とすることによってもたらされる弊害及び公開することによって生ずる有用性、公益性が、本件文書を公開することによって生ずるおそれのある支障、弊害を上回って余りあることは明白である。

(7) したがって、本件条例第八条四号・五号に該当しない。

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